【イベントレポート】メディアキーパーソンとともに考える
次世代アプリ開発戦略と成功ノウハウ

2012年11月08日
昨今、急速に拡大、浸透しているモバイル分野は、これまでのWEBに代わる新たな次世代情報メディアとなりつつあります。紙やWEBサイトで成功を収めている主要メディアは、今後モバイル分野でどのような発展を目指すのでしょうかー

2012年11月8日、Apple Store, Ginzaにて「メディアキーパーソンとともに考える 次世代アプリ開発戦略と成功ノウハウ」が開催され、出版社やWEBメディア運営者向けにiPhone/iPadアプリ、コンテンツサーバーを提供する次世代パブリッシングソリューション「CloudMedia for Publishers」の紹介と、いち早くモバイル分野に取り組んだメディアから3社の出席を得てパネルディスカッションが行われました。

「CloudMedia for Publishers」について

セミナー冒頭では、メディアプローブ株式会社代表取締役渡辺泰が、各媒体オリジナルのiPhone / iPad用閲覧アプリケーションの専用アプリの提供や広告・課金に関する提案、クラウドによるコンテンツ配信などをトータルでサポートするサービス「CloudMedia for Publishers」について紹介しました。

渡辺はまず、「情報爆発」と言われる程の情報量の多さと、一方で横ばいに止まる個人の消費可能量との差異を指摘。膨大な量の情報が無視される状況にあることをふまえ、「CloudMedia for Publishers」を提案しました。ユーザーエクスペリエンスを重視した同製品を採用することで、コンテンツをユーザーに合わせてパーソナライズし、情報と情報の受け手との繋がりを作ることが可能です。実際に会場で行われたデモによると、オフラインでも快適に使用できる機能やTwitterやFacebookとリンクするソーシャル機能、また、購読する記事を自分の好みにパーソナライズできるカテゴリー機能も持ち合わせています。
ユーザー側の視点を重要視する一方で、渡辺はサーバー側のソリューションについても言及。開発側が頭を抱える頻繁なアプリのアップデートやiOSのアップデート、規約変更等が起こった際も、比較的容易に対処することが可能です。初期の開発費が不要で、短期間でリリースでき、柔軟なコンテンツ運用が可能になるため、メディア側はコンテンツ作りに集中できる点が「CloudMedia for Publishers」の最大のメリットとなります。

続いて行われたのは、メディアプローブ取締役藤村厚夫がモデレータをつとめ、「CloudMedia for Publishers」を採用した「Biz誠」「BCN Bizline」「WirelessWire News」の各責任者3名が登壇したパネルディスカッションです。1時間弱という短い時間ではありましたが、各社のモバイル分野進出の背景や、目的そして今後の課題が語られました。

なぜ今アプリなのか?

Appleストア銀座セミナー会場
ディスカッションの皮切りに藤村氏が各パネリストに投げかけたのは、モバイル分野進出のきっかけと今後の展望についてでした。

アイティメディア株式会社 取締役 スマートメディア事業推進部長であり、「Biz誠」のアプリ責任者でもある斎藤健二氏。アイティメディア全体で月間1億のページビューのトラフィックを誇りますが、そのトラフィックがモバイルへとシフトしようとしていることを受け、スマートフォンやタブレットへの本格的な展開を決めたと語ります。現在の基幹アプリである「ITmedia for iPhone」のアプリは約50万ダウンロードを記録しており、今後、「Biz誠」同様の「CloudMedia for Publishers」を採用することで、さらなる成長を見込んでいます。

「WirelessWire News」アプリを提供する株式会社スタイル代表取締役竹田茂氏が狙いとして挙げたのは「コミュニティの形成」。竹田氏は、ページビュー重視のBtoCではなく、BtoBにおいてよりコアなターゲットと濃いコミュニティの創出を目指していきたいと語りました。

また、紙とWEB、そしてアプリという様々な媒体を持つ株式会社BCNの週刊BCN 編集長で「BCN Bizline」の責任者である谷畑良胤氏は、「紙だけでは売れない」という現実を認識した上で、多様な媒体を抱えているからこそ、メディアの使い分けに着目をしています。「紙」を求める年齢層の高い世代にはこれまで通りの紙媒体を、紙離れが進む世代にはアプリを提供することで「紙」の購読の継続を図りつつ、次なるビジネス拡大のチャンスをねらうとコメントしました。

アプリ開発におけるメリットと課題

いち早く「CloudMedia for Publishers」を採用し、多くのユーザーを獲得している3社ですが、アプリの開発と提供の過程で直面したメリットや課題は何か。

谷畑氏は、メディアプローブの提案するビジネススキームが初期開発費用を抑制できる点が大きなメリットだったと語ります。社内承認を受けるためには、最初に必要な開発コストが大きな壁となるためです。アプリ開発の際にはコンテンツの作り込みの妥協をせず、じっくり時間をかけたとも語りました。

技術やビジネストレンドなどの解説の記事が多い「WirelessWire News」においては、竹田氏が編集の観点から今後の課題について言及しました。情報量やメディアの種類が増える傍ら、個人がそれぞれのメディアに触れる時間が減る点をふまえて、文字から写真へとユーザーの指向が移行すると指摘しました。スマートフォンのような小さな画面を通じて情報を伝達する時には、長い文章で訴えるよりも、ビジュアルを中心に用い、感覚的に理解できる方が圧倒的に効果的であると述べました。

一方の斎藤氏は「CloudMedia for Publishers」を採用したことで、モバイルプラットフォームごとに頻繁に発生するOSや新機種発売などで発生する機能追加などに対応が求められるなど面倒な開発作業から解放されたと、そのメリットについて言及。「モバイルファースト」という言葉を使いながらその考えを説明しました。モバイルの方が会員などの集客がしやすく、特に年齢層が低くなるほどコンバージョンも高くなっていると語りました。

また、文字からビジュアルへの移行について竹田氏と同様の意見を待つ斎藤氏は、「WEBサイトのコンテンツのモバイル化」という意識にとらわれない、モバイル専用サイトの開発も重要になってくるだろうと指摘します。アイティメディアでは10月にスマートフォン専用のニュースサイト「ITmedia News スマート」を立ち上げ、既に100万以上のページビューを獲得しました。

ビジネスモデルとしてのアプリ

それでは、アプリを活用したメディアビジネスを成立するために必要な要素は何でしょうか。

竹田氏が真っ先に例としてあげたのがLINEの、「ページ」ではなく「ストリーム」のインターフェースです。LINEは画面上に現れる吹き出しの連続であり、ニュースサイトもストリームへの移行を余儀なくされるだろうとコメントしました。

一方で、ページビューが重要なKPIだとするアイティメディア社にとっても、メディアと連動したB2Bコンテンツやイベントにおいては、読むだけでなく、いかにエンゲージメントしたか、行動したかが問われてきていると斎藤氏は指摘します。また、属性に合わせたマーケティングを行う場合にも、アプリにメリットが出てくるのではないかと語りました。

谷畑氏はコアユーザーのデーターベースを出来る限り集め、アプリや自社のコンテンツの強みを生かして一人一人の心を掴むことが勝負を左右するカギなのだと語りました。
パネリスト

シーンに合ったアプリの提供

アプリはユーザーからのアクセスが習慣化しやすいと語ったのは斎藤氏です。実際に、WEBページとアプリの閲覧ページ数を比較すると、WEBは3~5ページの一方、アプリは16ページにもなるといいます。アプリを使用するシーンを想定し、シーンに適したコンテンツを提供することで、さらにその習慣化が促進されるといった具合です。
さらに、スマートフォンを「センサーの塊」と表現したのは竹田氏。位置情報や時刻データを活用し、ユーザーの行動の把握やシーンの想像をすることで、より詳細で正確な対象の分析が可能になるとの期待を述べ、センサーに対応する視点の重要性を挙げました。

モバイル分野における今後の展開

スマートフォンやタブレットの急速な普及で、すでに一般化したと思われているアプリ。しかし、実際のところ、今後さらなる可能性を秘めています。パネルディスカッションの終盤では、3社がこれからの展開や展望について語りました。

谷畑氏にとってのビジネスの理想は「コミュニケーションから生まれるビジネス」。実際に、谷畑氏自身、Facebook上での行動の見える化を実施していると言います。地方取材の際、自身が出向いた先を必ずアップし、出会いの場を生むキッカケを作っています。クラウド時代になり、複数の企業が手を取り合う昨今、コミュニティの中での繋がりがビジネスへと発展していくことも少なくありません。ユーザーからもコミュニティの形成が求められていると語りました。

斎藤氏は、アプリは機能のさらなる充実が最大の課題とした上で、単なる「通知」や「お知らせ」を超えた、ユーザーが関心を持ちそうな話題のプッシュの有効活用について言及。アプリは習慣化しやすい一方、一度離れてしまうと再び利用するサイクルに戻すのが難しい。その弱点をカバーできるような活用方法を模索中であり、その点でもプッシュの果たす可能性に期待を述べました。

「平たく言うと出会い系。つまり、コンテンツはビジネスパーソンが出会うためのきっかけ」と表現したのは竹田氏。ネタとしてのニュースやコンテンツをベースに、どのようにして人との出会いを増やすのかが全てにおける最終目的になるのではないかと予測しました。

開発者へのメッセージ

ディスカッションの終わりに、モバイル分野への進出で、それぞれに様々な発見や課題と直面するパネリスト3者より、開発者へのメッセージが寄せられました。

アプリ開発や頻繁なバージョンアップの際の開発者の苦労を知る斎藤氏は、アプリ導入の初期段階では、「CloudMedia for Publishers」のように実績あるものの導入が有効手段だと思うと述べました。竹田氏は、行政しかり新聞しかり、震災以降失われた信頼を得るメディアをつくることが先決とアドバイス。また、谷畑氏は既に存在するプラットフォームを活用して、むしろビジネスモデルを十分に練ることが重要だと述べました。